光の波動性 |
2.干渉
干渉とは、二つ以上の波が重なり合って、強め合ったり弱め合ったりする現象である。前に見たように、波を重ね合わせるとき位相(の差)が重要である。同じ波長の波を重ね合わせるとき、位相差がの奇数倍のとき、二つの波は打ち消し合い、偶数倍のとき、強め合う。光学距離でいうと、光学距離差が、半波長の奇数倍のとき打ち消し合い、偶数倍のとき強め合う。光源の違う光は、位相が制御できないのでこうした位相差にするのは難しい。光を干渉させるときには、同じ光源からの光を何らかの方法で二つに分けて重ね合わせる。
ヤングの実験
ヤングが行った光の干渉実験の模式図が図9である。入射光線をスリット S でしぼって、この一点から出たようにして位相を調整する。二つのスリット S1と S2を通ると、ふたたびこれらの二点を中心として波が球面上に広がってゆく。これらの波は、山と山、谷と谷が出会うところは強めあう。逆に、山と谷、谷と山が出会うところは打ち消しあって波が消える。強めあうところは光が沢山くるので明るく、弱めあうところは光がこないので暗くなり、スクリーン上に明暗の縞模様ができる。
スリット間隔 S1 S2 = h、スリットとスクリーンの距離= D、波長=λ、縞の間隔=Δx とすると、
Δx = Dλ /h
が成り立つ。縞の間隔Δx を測定すると、光の波長がわかる。
薄膜による干渉--干渉板
シャボン玉のような薄い膜では、膜の表面と裏面で反射が起こり、それらの光線の干渉で色づく。ここでは二枚のガラス板の間に薄い物をはさみ、薄い空気の層をつくる。この空気層がシャボン玉の石けん膜の役割をして、干渉縞が見られる。
図10で、上から入射してきた光線は、一枚目のガラス板の下面で一部反射する(もちろん、上面でも反射が起こるが、この干渉には関係ない)。このときの反射では、屈折率の大きなガラスから小さい空気に伝わるので、位相の跳びがない。反射されなかった光はさらに空気層を進み、二枚目のガラス板の上面で反射する。このときの反射では、屈折率の小さな空気から大きなガラスへ伝わるので、位相の跳びがある。この反射光と先ほどの反射光との間に、反射による位相の跳びと空気層を往復する光学距離に相当する位相による位相差が生じて、明暗の縞ができる。暗い(明るい)線は空気層の厚さが同じところにできる。実際の実験の様子と干渉縞を図11、図12に示す。
縞の間隔Δx、使った光の波長λ、はさんだ物の厚さd、ガラス板の長さ L とすると、
Δx = Lλ /2d
の関係が成り立つ。干渉板を使うと、縞の間隔Δxを測定することによって薄いものの厚さdを測定できる。
薄膜による干渉--ニュートン・リング
薄膜による干渉の第二の例として、ニュートン・リングを取り上げる。概略を図13、装置を図14に示す。平凸レンズと平面ガラスを図のように接しておき、上から光線を照射する。この間にできる薄い空気の層によって干渉縞ができる。図のように上から光線をあてると、反射光線が二つ生じ、これらの光の干渉によって干渉縞ができる。空気層の厚さが同じところは同じ干渉条件になるので、円形の縞ができる。
図14 ニュートン・リング測定装置。正面から光を入射し、半透明レンズで光を上から落とす。できたニュートン・リングを顕微鏡でのぞく。レンズのカバーをはずしてある。 |
ニュートン・リングの写真を図15に示す。平凸レンズとと平面ガラスの接点を中心として同心円状のリングができている。中心から数えてk番目の暗い円 (リング)の半径r、使った光の波長λ、平凸レンズの曲率半径 R との間に、
r2 = kRλ
の関係がある。これから、暗いリングの半径を測れば、平凸レンズの曲率半径を測定できる。
薄膜による干渉--反射防止膜
眼鏡レンズはプラスチックやガラスでできている。光がレンズに入射するときその一部が反射する。反射率は、クラウンガラスで 4%、フリントガラスで 6.7%である。図16のように薄い膜をコーティングして、薄膜の表裏からの二つの反射光を干渉させて打ち消すようにする。普通、反射防止膜としてフッ化マグネシウムを使う。フッ化マグネシウムの屈折率は 1.38 で、ガラスやプラスチックに比べて小さいので、反射するとき、反射光の位相が変化する。二つの反射光が打ち消しあうためには、光線が反射防止膜を往復する光学距離が、波長の1/2であればよい。、すなわち、薄膜の厚さをtとすると、2nt=λ/2 である。膜の厚さtは、λ/4nとなり、これを四分の一波長コーティングという。
マイケルソンの干渉計
マイケルソンが発明した干渉計、いわゆるマイケルソン干渉計を紹介しよう。
波が伝わるためには、波を伝える媒質が必要だと考えられていた。水の波では水が媒質、音では空気が媒質である(真空にすると音は伝わらなくなる)。光にも媒質があるはずだと考えて、それをエーテルとよんでいた。光が伝わるところにはエーテルが存在するので、エーテルは宇宙に充満していると思われていた。水の上を進む船から出す波は、船の進む前方と後方では伝わり方が違う。これと同じように、エーテルのなかを運動する地球の前方と後方で光の伝わり方が違うはずである。
この違いを測定するために、マイケルソンが考え出した干渉計がマイケルソン干渉計である。後にモーレーもこの実験に加わり、マイケルソン・モーレーの実験と呼ばれている。彼らの実験の結果、違いは計測されず、エーテルの存在は否定された。この実験は、アインシュタインの特殊相対性理論を生み出すきっかけとなった。
マイケルソン干渉計は、図17のように光源から出た光線をハーフミラーで分離し、それぞれ鏡で反射させ、検出器のところで干渉を観測する。検出器のかわりにスクリーンをおいて観測することもある。マイケルソン干渉計の写真を図18に示す。
マイケルソンの干渉計は、光の波長の精密な測定、屈折率測定など広い応用がある。 ここでは、空気の屈折率の測定について説明する(図19)。マイケルソン干渉計の一方の光路に真空にできる管をおく。この管の厚さを d とすると、光線は行きと帰りで 2回管を通るので、真空のとき光学距離は 2d となる。これに空気を入れていくと、空気の屈折率 n をかけた光学距離 2nd に変化する。光の波長λだけ光学距離が変化すると、1個の干渉縞の変化が起こる。干渉縞は図20のように環になっている。(干渉環が吸い込まれるか、湧き出すかは、実験の設定によるが)空気を入れていくと環がだんだん小さく(大きく)なり、ついに中心に環が1個吸い込まれる(ついに中心から環が1個湧き出す)。これが1個の干渉縞の変化にあたる。
空気を入れ終わるまでの干渉縞の変化数Δmを求めてみよう。波長λ、空気の屈折率 n とする。光学距離の変化は、2nd−2d = 2 (n−1) d である。したがって、縞の変化数 Δmは、
Δm = 2 (n−1) d /λ
で表せる。管を真空にして、空気を入れ終わるまでに吸い込まれる(湧き出す)干渉縞の数を数えることによって、空気の屈折率が分かるのである。空気の屈折率 n は、干渉縞の変化数Δmを使って次のように表せる。
n = 1 + Δm・λ /2d