オプトメトリー検眼-両眼視検査編 --- #8 から #21 まで --- |
加藤 元嗣, MS Kikuchi College of Optometry |
アメリカ式21項目検査のうち、#8から#21までの両眼視検査の方法を解説します。#8から#21までの両眼視検査は問診で眼精疲労が認められた場合、その原因が何であるかを特定し、その対処法を具体的に数字で表すために行います。#8から#12Bの検査は遠方の検査であり、#13Bから#21までは近方の検査になります。 他の解説書には記載されていない検査中に困ったときの対処法についても細かくより丁寧な解説を試みたいと思います。
#8(遠方の水平斜位検査) |
目的: 遠方のカバーテストで水平斜位が検出された場合、その量を特定する目的で行います。また、問診で遠方において眼精疲労がある場合も注目すべきデータとなります。
出発点レンズ: #7A
フォロプターの状態: 両眼開放
ターゲット: 1文字視標もしくは縦1列の視標、0.7 程度の大きさ
ロータリープリズムのセッティング: (写真1参照)
左眼に6△のBDをセットします。これを分離プリズムと呼びます。この状態で、お客様にはターゲットが上下に2つに見えます。上の方の像は左眼で見ている方で、下の方の像は右眼で見ています。像の見え方は基底方向(ベース)の反対側になります。この場合、左眼にBDを入れているので、左眼では像は上方に見えます。
右眼には水平方向にロータリープリズムをセットし、BIを加えていきます。すると下の方のターゲットの像は右の方へ移動していくようにお客様には見えています。この場合、右眼にBIを入れているので、像は基底方向の反対側である右側に見えているということです。
BIプリズムを入れずに0プリズムから測定を開始する方法もありますが、BIプリズムを入れることによって融像性の輻輳の介入を妨ぎ、安定した斜位値を得ることができます。BOプリズムは使用しない理由は、このプリズムを入れても内寄せすることによって融像することができてしまうので融像性の輻輳の介入を妨ぐことができません。私たちは基本的に内寄せすることは得意ですが、外寄せすることは苦手なので、BIプリズムを使用して融像性の輻輳が介入しないようにします。
右眼に入れたプリズムを測定プリズムと呼びます。このプリズム量で水平斜位の値を決定するからです。カバーテストで見積もった水平斜位の量にもよりますが、右眼に加えるBIプリズムは、通常は 10△程度です。カバーテストで 10△EXO より大きな場合は、それよりも大きなプリズム量を入れます。
お客様に「下のターゲットを今から左の方へ移動させて行きますので、上のターゲットの真下に来たら合図してください。また、そのときできるだけ上のターゲットを見るようにしていてくださいね。」と説明します。分離プリズムを入れた方を固視眼としますので、上の方の像を見ていてもらいます。それによって安定した斜位値を得ることができます。像は図1のように移動して行きます。
上記のように指示した後、BIプリズムを減少させて行きます。その時ポイントとなるのがフラッシングテクニックを用いることです。それは、測定プリズムの眼前を覆いターゲットを見せたり隠したりするテクニックのことです。具体的にはオクルーダー(遮眼子)を用いて1プリズム移動させるごとに1回ターゲットを見せるといった要領です。これによって融像性の輻輳をできるだけ介入させないようにしてそのお客様が持っている斜位量を測定します。
フラッシングテクニックを行うときは、手で行うのではなく、必ずオクルーダーを使用しましょう。プロは道具を使って検査を行うのが原則です。
お客様が「上下が1列に並びました。」と答えた時のプリズム量が 1△BIであったとしたら1 EXO(1プリズムの外斜位)と記入します。3△BOであったとしたら3 ESO(3プリズムの内斜位)と記入します。 0 プリズムの位置で「上下が1列に並びました。」といった答えであれば ortho またはと記入します。
斜位の測定値の記入を2BIのようにプリズム量で記入される方をみかけますが、斜位の測定ですのでや EXO、 ESO、 HYPER(上斜位)のように記録すべきです。そして、それらに対する処方をBI、BO、BD、BUのプリズム量で表します。
外斜位というのは視線が外側を向いている状態ですので、網膜の中心窩(網膜の中で最も視力が良い箇所)は内側にあります。このとき、BI(ベースイン:基底内方)のプリズムを使用することによって、光線を内側(基底方向)に曲げて、像を中心窩に一致させることができます。
内斜位というのは視線が内側を向いている状態ですので、網膜の中心窩は外側にあります。よって、BO(ベースアウト:基底外方)のプリズムを使用することによって、光線を外側に曲げて、像を中心窩に一致させることができます。
この結果とカバーテストで見積もった眼位の結果を常に比較するようにすることによってカバーテストの精度を上げることができるのでぜひ日頃から行っていただきたいと思います。
お客様が子供やシニアの方の場合、この1列に並んだということをうまく言葉にできない場合があります。その場合、今どのようにターゲットが見えているか両手を使って表現してもらうとより理解しやすくなります(写真2参照)。