波面センサーと屈折検査     
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IV.今後の屈折検査と眼鏡処方への応用

 従来の屈折検査における視力測定の問題点の一つは、標準化された状態で測定が行われることである。実際の生活では「見る状態」が一定でないにもかかわらず、検眼室での視力測定ではグレアのない十分な照度下(高コントラスト)で行われる。3mmほどの瞳孔径のため、焦点深度が深く、自覚的屈折補正度数の決定が難しい(図4−1)。さらに、この自覚的屈折検査では0.25D単位で度数決定が行われるが、これが有効なのは瞳孔が小さいときのみである。瞳孔の大きさは最低で明所視での約2mmから最高で薄明視での約8mmまで変動する(図4−2)。このように、標準化された条件が崩れた場合、視力低下や不快感が生じるので、実生活に即した環境で視力測定することが、視覚の質を正確に把握し、説明するために不可欠になってきた(図4−3)。波面センサーでの測定や様々なコントラストでの視力(対比視力)の測定が必要になってきた。

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図4−1 眼の焦点の深さと瞳孔径

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図4−2 各種照明下での瞳孔怪

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図4−3 日常生活での実際の見え方

 波面センサーは、LASIKなどの屈折矯正手術や白内障手術後の眼内レンズの度数決定などに利用され、術後の視覚の質(Quality of Vision)が追求されるようになってきた。これらの装置は、高次収差や瞳孔径などを考慮してより正確な他覚的屈折異常補正値の測定を可能にする。医療現場からのニーズによって開発されたこれら装置を、眼鏡店が活用するようになるには、まだまだ時間がかかると考えられる。しかし、両者が競合してこのような装置がより普及すれば、より早くより正確な屈折異常補正値の測定が可能になってくる。

 特に眼疾患がない眼であれば、このような装置を使って、近い将来どこの眼鏡店でもより正確な屈折検査・分析が可能になってくる。その結果、屈折検査における技術的差別化がますます困難になってくることが予測される。眼鏡店での視機能検査の必要性が今後ますます要求され、眼鏡技術者の生涯学習が不可欠になってくると考える。オートエッジャーの場合と同じように、この測定装置が度出しにおいて人間が行ってきた技術に取って代わってしまうかもしれない。視力、両眼視、輻輳・開散、調節の4つの基本的視機能及び個々の眼状態を考慮した処方度数の決定が、ますます大切になってくる。

 波面センサーが屈折検査において具体的に利用できるケースは次のようである。
1.眼疾患を有しない眼で十分な視力が測定されない場合の原因追及
2.瞳孔径と見え具合の変化の把握
3.高次収差とコントラスト感度との関係把握
4.波面光学を利用した眼鏡レンズの処方

1)眼疾患を有しない眼で十分な視力が測定されない場合の原因追及
 眼への入射光は、まず角膜で屈折され、さらに水晶体で屈折されて進行して網膜に結像する。この過程でどこかに欠陥があると、眼疾患がない眼でも十分な視力が出ないケースが生じる(図4−4)。波面センサーでは、角膜全体の形状測定、角膜から網膜までの眼全体の屈折パターンの測定が可能になる。これらのデータから、どの部分に欠陥があって十分な視力が出ないのか、原因の把握が可能になる(図4−5)。

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図4−4 波面センサーによる正常眼(右)と円錐角膜眼(左)の高次収差マップ

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図4−5 波面センサーでの測定範囲

2)瞳孔径と見え具合の変化の把握
 「昼間はよく見えるが、夜は見ずらい」という訴えをするお客さまが増えている。一般のオートレフラクトメーターは、眼の中心部約3mmの屈折補正値を測定している(図4−6)。この径は昼間視のサイズで、夜は瞳孔径が大きくなり高次収差が生じやすくなる。瞳孔サイズによって必要な屈折異常補正値も変わってくる。波面センサーでは、瞳孔内を多数のデータ点で計測するため、昼間視、夜間視の瞳孔径での他覚的屈折異常補正の度数測定が可能になる。「昼間はよく見えるが、夜は見ずらい」という人の眼を異なった瞳孔径で測定し、異なった補正度数が得られたとき、複数の眼鏡処方の必要性をアドバイスすることができる(図4−7)。

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図4−6 波面センサーとオートレフ測定時の瞳孔径の違い
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図4−7 瞳孔径が変化した時のチャートの見え方

3)高次収差とコントラスト感度との関係把握
 高次収差の視機能への影響は、視力低下やコントラスト感度の低下などである。高次収差のデータから見え方の違いをシミュレーションすることが可能になる(図4−8)。ただ単に視力1.0だけでなく、快適な視力の提供も今後ますます必要になってくる。

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図4−8 高次収差によるコントラスト感度低下と見え方の変化

(補足:コントラスト感度とは)
 コントラストとは「対象物の明るさとその背景の明るさのとの対比」である。明るさは輝度計で測定され、その単位は、Cd/m²である。コントラストが高くなると、明暗の差が大きくなり見やすくなる。コントラストが低くなると解像度が低下して、見ずらくなる。各種コントラスト下での視力を対比視力と呼び、対比視力検査が正確な視覚状態の把握に不可欠になっくる。その結果、より実生活に即した環境での視力測定が可能になる。

 コントラスト計算法( Michaelson formula)は、次のようである。

 
 コントラスト = 
 
 視物の輝度 − 背景の輝度 

 視物の輝度 + 背景の輝度 

 コントラストの測定には Photometer が使われる。例えば、輝度100の背景に対して視物の輝度が150の場合のコントラストは、

 
 コントラスト = 
 
 150−100 

 150+100 
 
 = 
 
  50 

 250 
 
 = 20%
 

となる。

 コントラスト感度は、「ある空間周波数において認識できる最小コントラストの逆数」と定義される。つまり、コントラスト感度はコントラストのはっきりしないものを見分ける力である。

(補足:対比視力検査表)
 ニデック多機能液晶視力表では、4レベル「100%、25%、12.5%、6%」でのコントラスト条件で、「ランドルト環」「ひらがな」視標で視力検査が可能。白内障等で透光体に問題がある人の検査や、サングラスでの見え具合変化の説明に有効である。

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図4−9 コントラスト視力表

4)波面光学を応用した眼鏡レンズの処方
 波面センサーでの高次収差等の測定が一般化すればするほど、高次収差による屈折異常補正内容も変わってくる。ただ単に視力アップのみを提供するだけの眼鏡処方では、消費者の多様なライフワークに対応することがますます困難になる。このような測定器具およびカスタムレンズ製作の実現化に伴って、新しいデータを取り入れたレンズが開発されてきた。このようなレンズがますます開発され、屈折異常のより良い補正が近い将来可能になると予想される。このような技術革新によって、眼鏡店における視機能検査の実施法も変えざるを得ないかもしれない。

 
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図4−10 通常の処方とi.Scriptionによる網膜像の違い
  (脳が像を最適化する前の状態を示している)

----------  おわり  -----------


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