光の波動性
      -----  物理光学入門  -----
西谷 正 Ph.D.  Kikuchi College of Optometry
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はじめに

 光が粒子であるか波であるかについて古くから論争があった。17世紀にニュートンは、光が直進し音波のように回折現象が観測されないこと、偏光が音波のような縦波では説明できないことから、光は発光体から発射される粒子であると考えた。一方、ニュートンと同時代のフックは光の波動説を唱え、ホイヘンスがこの考えを発展させた。ニュートンの権威によって、光の粒子説が主流であったが、19世紀になり、ヤングによって干渉と薄膜の色が説明され転機を迎えた。続いて、フレネルは、二次波とその干渉により回折現象を説明した。
 このようにして、光の粒子説にかわって波動説が信じられるようになった。また、マクスウェルによって光が電磁波であることが明らかにされた。電磁波は真空中を伝わり、媒質を必要としない。20世紀になってアインシュタインは、光は粒子(光子)であるという粒子説によって、黒体輻射、光電効果などを説明した。現在では、光は波の性質と、粒子の性質の二重の性格を持っていると理解されている。
 ここでは、光が波であることを示す干渉、回折、偏光の現象を見ていくことにする。

目次

1.波と光
 単振動、横波と縦波、重ね合わせの原理、波の反射と透過
2.干渉
 ヤングの実験、薄膜による干渉、ニュートンリング
 マイケルソンの干渉計
3.回折
 回折、フレネル回折、フラウンホーファー回折
 回折格子、直交回折格子
4.偏光
 偏光、液晶の偏光、偏光の干渉

1.波と光

 光の波は、ぶつかると強めあったり弱めあったりする干渉、影の部分に回り込む回折など、水の波や地震の波と同じような性質をもっている。これらの波一般が持つ性質を見ていこう。
 水の波の一点を見つめていると、そこでは水が上下に振動しているだけで、水が波とともに横方向に移動するわけではない。水は振動してエネルギーを伝えているだけである。このように波を伝える水などの物質を媒質といっている。空気中を伝わる音は、空気を媒質として伝わっている(光は電磁波の一種で波であるが、媒質を必要としないことがわかっている)。

 単振動

 水面の一点は、上下に振動しているだけだといったが、この運動の基本となるのが単振動である。半径aの円周上を等速で運動している点を横方向から見ると、上下している運動しか見えない。この上下の運動が単振動である(図1)。いまは横方向から見たが、今度は上の方向から見ると、左右に運動しているのが見える。これも単振動である。横方向、縦方向に限らず、円運動している平面上のどの方向から見ても単振動になる。

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図1 単振動。初期位相 δ=0で出発した円運動(左図)。その円運動をy軸上(x軸上でもよい)で見た運動(右図の赤点)が、単振動である。時間に対してグラフで表したのが右図。


 上下の運動をしている単振動を式で書くと、次のようになる。

   y = a sin(ωt + δ)

ここで、yは基準の位置(x軸)からのずれを表し、時間とともに変化する(ω、δはギリシア文字で、それぞれオメガ、デルタと読む)。このずれを変位という。この式の、ωt+δを位相といい、単振動する点がどの位置にあるかを示す重要な値である。δは初期位相といって、円周上のどこから出発したかを表すが、図1では、円周上のx軸上から出発しているので δ=0である。aを振幅とよび、変位の最大値を表す。波の振幅の二乗 a は、波の強さ(強度ともいう)に関係しており、振幅が2倍になれば強度は4倍に、3倍になれば9倍になる。ωは角速度といい、1秒あたりに進む角度である。

 弧度法

 角度の新しい計り方、弧度法を説明しておこう。まず、半径rの円を描く。その円周に沿って半径に等しい長さrをとると、角度が決まる。この角度は半径rによらず、どんな半径の円を描いても一定である。この角を1ラジアンという。われわれのよく知っている度(°)との関係は、2paiラジアン= 360°、1ラジアン= 360度/2pai= 57.298°である。これからは、特に断らない限り、角度は弧度法で表すことにする。

0006 図2 弧度法。
半径rの円を描き、円周上に半径rと同じ長さをとり、その角を1ラジアンとする。

 横波と縦波

 波には、横波縦波がある。横波は進行方向(図3では右方向に伝わっているとする)に対して垂直に振動する波である(図3の上図)。縦波は、進行方向に対して平行に振動している波である(図3の下図)。縦波の変位を次のように理解すると横波と同じであることが分かる。図3の下の図の縦波に書かれた赤い棒に注目すると、この点は縦線の位置を中心に左右に単振動している。またそれぞれ棒の青い縦棒は、少しずつ横軸方向に移動した線を中心として単振動している。その結果、縦棒の並びが密な部分と疎な部分ができ、この疎密が右方向に伝わっていく。これを 90°回転してみると、赤い棒の振動と横波(上の図)の赤い点の上下の振動が同じものであることが理解できるであろう。縦波には、空気中の音、地震のP波(初期微動にあたる)、横波には、光、地震のS波(初期微動のあとで大きく揺れる波)などがある。光は電場・磁場が変化しながら伝わる横波であるので (図4)、偏光という現象がおこるが、これは後に見ることにする。

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図3 横波と縦波。横波(上)は基準の位置から上(プラス方向)下(マイナス方向)へのずれ(変位)が次々に伝わっていく。縦波(下)はそれぞれの基準の位置(赤い棒に対しては、縦線)から左右に振動している。右に移動すればプラス、左に移動すればマイナスとすれば、基準の位置からのずれは横波と同様に考えられる。

 波には波長という量がある。ここで、波長を定義しておこう。図4で、波長λ(ギリシア文字でラムダと読む)は、波の山と山の距離、あるいは谷と谷の距離のことである。一波長λ変化する間に、位相は2paiラジアン変化する。可視光の波長は、だいたい 400nm 〜 800nm(1nm(ナノメートル)=10-9m)である。

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図4 電磁波の伝わり方。電場と磁場は直交して振動している。光の波長は、大体400nm〜800nm。波は一波長変化する間に、位相は2pai変化する。

 重ね合わせの原理

 波の性質で最も重要な重ね合わせの原理について説明しよう。この原理によれば、波が衝突したときの波の形は、それぞれの変位のプラス・マイナスを考えて加え合わせればよい、のである。図5に、三角形の波の衝突の様子を描いた。左から来る波は、変位がプラス、右から来る波は、変位がマイナスである。衝突している間の波の形は、赤い線で表してある。

0011 図5 重ね合わせの原理。二つの波が衝突すると、それぞれの変位を+−の符号を考えて加えあわせればよい。赤線が衝突中の波の形である。衝突後は、衝突前の形を保ったまま伝わる。

 位相差によって、重ね合わせた結果がどのように変わるかを図6に示した。青と緑で描いた波が重ね合わせられる波であり、赤い線が重ね合わせた結果である。

 位相差0ときは、青と緑がまったく同じものになり、重なっていて図では区別ができないが、重ね合わせると波の二倍の変位となる。位相差2paiのときも位相差0のときと同じ結果になることは、図を見れば明らかであろう。波を扱うとき、このように一波長あるいはその整数倍の差は、無視してかまわないのである。

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図6 等しい振幅の波の重ね合わせ。位相差によって合成波の振幅が異なる。

 位相差 pai/3、pai/2、3pai/2のときも、それぞれ重ね合わせると、図のような結果が得られる。注目すべきは、位相差paiのときで、重ね合わせるとゼロになり、波が無くなる。
 このように、波を重ね合わせて得られる波は、位相差によって強くなったり弱くなったりする。位相差paiの偶数倍のとき、二つの波は位相があっている、位相差がpaiの奇数倍のとき、逆位相という。

 波の反射と透過

 固定端(固定されていて上下に動かない端)と自由端(上下に自由に動ける端)で波の反射が起こる(図7)。固定というのは、波が来てもその点で全く変位が起こらないという意味である。このような固定端に波が入射した場合、反射波は図のように上下がひっくり返る (正弦波では、反射波の位相がpai変化することに相当する )、つまり、固定端では入射波と反射波を重ね合わせるとつねに変位はゼロになっている。自由端に入射した場合、自由端では入射波と反射波の変位がつねに同じであり(正弦波では、反射波の位相が変化しないことに相当する)振幅は大きくなる。このように、固定端や自由端では、波が完全に反射される。端点以降も同じ材質のものをつないだ場合には、反射は起こらず、波は全部透過する。

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図7 波の固定端による反射(上)と自由端による反射。固定端では、反射波は上下ひっくり返って反射する。自由端では、上下ひっくり返らず伝わる方向だけを変えて反射する。

 上のような極端な場合でなく、途中で媒質がかわる一般の場合では、その境界で波の反射と透過が起こる。光が、空気(屈折率1)から屈折率nの物質に入射したときの様子を図8に示した。屈折率が小さな媒質から大きな媒質に入る場合の反射は、固定端の反射と等しくなり、反射波は上下ひっくり返り、位相がpaiずれる。逆に、屈折率が大きな媒質から小さな媒質に入る場合の反射は、自由端の反射と等しくなり、反射波の位相はずれない。これらの場合ともに、反射と同時に透過が起こり、透過波は、屈折率 n の媒質中で波長がλ/n となる。このことから、屈折率nの物質中を光が距離t進んだ場合、真空中で距離 nt 進んだことに相当することが分かる。このように屈折率 n と媒質の厚さ t をかけた nt を光学距離という。

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図8 媒質変化による光の反射と透過。屈折率n>1であるので、反射波は位相がpai変化する。また、透過波の波長は λ/n となるので、t だけ進むと光学距離は nt となる。


 屈折率1の空気から屈折率 n の媒質に入射する光線の反射率がどの程度かを見ておこう。境界面に垂直入射の場合、反射率 R はフレネルの式として知られており、

    R = (n−1)2/(n+1)2

である。この式で、屈折率 1.5 のクラウンガラス、1.7 のフリントガラスの反射率を計算すると、それぞれ、
    n = 1.5 のとき、 R = 0.04
    n = 1.7 のとき、 R = 0.067
となる。屈折率の大きいフリントガラスのレンズでは、反射を防ぐために防止膜ををつける必要がある。



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