光の波動性
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3.回折

 回折とは

 光が影の部分に回り込む現象を回折(かいせつ)という。この現象は、波に特有な現象である (図21)。まず水の波の回折を見ることにしよう。図22に波長の異なる波の回折を示した。これから、波長が長いほど波が回り込みやすいことがわかる。

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図21 回折。
波が障害物の影に回り込む現象。



図22 水の波の回折。
(a),(b),(c)の順に波長が長くなっており、波長が長いほど波が障害物の後ろに回り込んでいる。Hecht・Zajac OPTICS、ADDISON-WESLEY PUBLISHING COMPANY(1980)より。
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 光は波長が短いので、回折現象を見るには、工夫が必要である。図23にある狭いスリットを通して見たナトウリウムランプの写真が図25である。スリットは図24のように狭いにもかかわらず、スリットを通った光がかなり広がって見える。

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図23 スリットを通してナトリウム光源を見る。
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図24 スリット。開いている幅が狭いことに注意。

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図25 スリットを通してみたナトリウム光源。(Photo 西谷)


 光の回折は、フレネル回折フラウンホーファー回折に分けて考えると計算が扱いやすい。図26で、波長λ、光源と孔との距離r′、孔と観測点の距離r、孔の半径 R との関係が、

  r ,r′ < R2/λ のとき、フレネル回折、
  r ,r′ > R2/λ のとき、フラウンフォーファー回折

という。フレネル回折は幾何学的影の縁付近の回折像を議論するときの扱い方で、フラウンフォーファー回折は無限遠のスクリーン上に干渉縞をつくる場合である。

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図26 円形孔による回折。光源と孔の距離r′、孔と観測点の距離r、孔の半径 R との関係で、フレネル回折、フラウンホーファー回折になる。


 円形孔による回折

 様々な半径の円形孔による回折を図27に示す。孔から1mにスクリーンをおいて回折像を撮影したものである。図では、左上から右下に向かって、孔の半径が次第に大きくなっている。ある大きさのところで同心円の明暗があらわれるが、それまではr、r′に比べて孔の半径が小さいのでフラウンホーファー回折である。円孔の半径が大きくなると、フレネル回折となり、円形の明暗の数が増えていく。

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図27 円形孔による回折像。
孔からスクリーンまで1m。孔の半径 R は、1mm から 4mm まで変化している。孔の大きさによって、明暗の円の大きさが変化している。Hecht・Zajac OPTICS、ADDISON-WESLEY PUBLISHING COMPANY(1980)より。


 おもしろいのは、孔のかわりに円形の小さな障害物、たとえばボールベアリングをおくと、影の中央部が明るくなる(図28)。この明るい点をポアソンの輝点という。

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図28 ボールベアリングによる回折。
影になっているのに中央が明るくなる。Hecht・Zajac OPTICS、ADDISON-WESLEY PUBLISHING COMPANY(1980)より。

 まっすぐな縁によるフレネル回折

 まっすぐな縁によるフレネル回折(図29)では、幾何学的影でない方に明暗の縞模様ができる (図30)。

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図29 まっすぐな縁によるフレネル回折。



図30 まっすぐな縁によるフレネル回折
暗い方が幾何学的影の部分である。
影でない方に明暗の縞ができる。
(Hecht・Zajac OPTICS、ADDISON-WESLEY PUBLISHING)
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 単スリットによるフレネル回折

 図23の単スリットによるレーザー光の回折を図31に示す。うっすらとであるが、左右に回折光が見える。

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図31 単スリットによるフレネル回折。
中心の明るい部分の両側にうっすらと回折光が見える。(Photo 西谷)

 円形の孔によるフラウンホーファー回折(分解能)

 望遠鏡で遠くを見るとき、対物レンズ(あるいは対物鏡)による回折が生じ、望遠鏡の分解能に影響を与える(図32)。円形孔の半径が大きい場合と小さい場合の像を図33に示す。これから対物レンズの口径が大きければ分解能がよいことが分かる。天体望遠鏡も対物鏡も口径が大きい方が分解能がよいので、大きな対物鏡をつくる努力がされている。現在、世界で最も大きい光学望遠鏡は、ハワイの天文台にあり、その対物鏡の直径は 10mである。

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図32 円形孔による点光源の像の広がり(フラウンホーファー回折)。円形孔の直径が小さいと、回折によって像が広がり、重なってしまう。


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図33 円形孔による像。左側の方が円形孔の直径が大きい。Hecht・Zajac OPTICS、ADDISON-WESLEY PUBLISHING COMPANY(1980)より。


 単スリットによるフラウンホーファー回折

 スリットの場合は、図34のようになり、スリット幅が狭いほど光が広がることが分かる。

0082 図34 単スリットのフラウンホーファー回折。
スリット幅が狭い(上)と広い(下)場合。スリット幅が狭いと、光が広がる。(Photo 西谷)


 回折格子(1)

 回折格子は、両面が平らなガラス表面に1mm につき数十から数百個の割合で、等間隔に直線状の溝をつけたものである(図35)。

0093 図35 回折格子。
回折格子には透過型と反射型がある。これは透過型の格子で、左側の格子の刻み目の間隔が小さい。

0091 図36 回折格子を通してみた蛍光灯の光。
上の写真は、刻み目が細かく(600本/mm)、下の方が粗い(400本/mm)。刻み目が細かいとスペクトル光が横に拡がる。(Photo 西谷)


 溝をつけることによって、光を通す部分と通さない部分がスリット状に並び、多くのスリットを通った光が鋭い干渉をする。干渉によるピークは波長により異なる。透過型格子で、蛍光灯や豆電球の光を見ると、光が分かれて色づいて見える(図36)。刻み目が細かい(スリット間隔が狭い)とスペクトルが横に拡がる。回折格子は、光を波長ごとに分解する分光に用いられる。スリット間隔d、波長λ、次数m、回折角θとすると、

   d sinθ = mλ

なる関係がある(図37)。

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図37 回折格子によるスペクトル分解。入射光に含まれる光線が、波長ごとに分解される。左右対称であり、中心から数えて、左右それぞれを一次光線、二次光線という。角θも中心からはかる。


 図38は回折格子にレーザー光を入射したときの写真である。入射レーザー光を延長したところが明るいが、その左右に少し明るい点が見える。これが一次の回折光である。さらにその外側に二次光が見えるはずであるが、薄くて見ることができない。

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図38 回折格子による回折光。
中心の明るいところ(0次光線)、その左右に明るい点(一次光線)がある。(Photo 西谷)

 回折格子(2)--CDの表面による回折

 CDの表面に光線をあてると、虹色の色が見える(図39)。これはCDの表面にピットとよばれる突起が規則正しく刻まれているからである(図40)。このピットが反射型回折格子の役割をする。CDのトラックのピッチは 1.6×10-6m 、DVDは 0.74×10-6m で、DVDの方が小さい。

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図39 CDの反射光の色。
CDに刻まれたピットにより、回折されて色づく。

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図40 CD(左)、DVD(右)に刻まれたピット。 CDのトラック間隔は、1.6×10-6m 、DVDのそれは、0.74×10-6m

 CD(DVD)の反射によって虹色の環(これを“レインボーリング”と呼ぶことにする)をつくることができる。ペンライトで CDの中心を真上から照明して、ペンライトの位置付近で CD(DVD)を眺めると、リング状の虹ができる(図41)。DVD はペンライトをより近づけるのでペンライトが写っている。レインボーリングは、ピットが反射型回折格子の役割をし、極大となる方向が波長によって異なることによって生じる(図42)。

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図41 CD(左)とDVD(右)によるレインボーリング。CD は、ペンライトで 18cm ほど上から照明する。DVD は、10cm ほど上から照明し、カメラに収まるように写したので、ペンライトの影が見える。(Photo 西谷)

0107 図42 レインボーリングのでき方。波長によって反射される角度が異なる。

 *参考文献「レインボー・リングを見ませんか?」(佐々木 淳)   
(「 '96 青少年のための科学の祭典 札幌大会 実験解説集」 16ページ)

 直交格子

 図43のように縦横に刻みを入れた直交格子による回折像が図44に見られる。回折像は、縦横方向にそれぞれ極大が見られる。

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図43 直交格子。
格子状に縦横に光を通す点が並んでいる。
(東京都立高島高等学校の北村俊樹先生のホームページより。)
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図44 直交格子による回折像。
縦横に極大がみられる


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