波面センサーと屈折検査
関 真司 O.D. Kikuchi College of Optometry
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I. 収差とは
II.高次収差の測定
III.波面光学を応用した眼鏡レンズ
IV.今後の屈折検査と眼鏡処方

はじめに

 従来の他覚的屈折異常測定では、球面、シリンダー度数とその軸のみが測定され、高次収差は考慮されてこなかった。従来の球面・シリンダーの眼鏡レンズでは、視覚を低下させる高次収差を補正することは困難であった。しかし、よりよい視覚を得るためには、低次及び高次の収差の補正が必要である。

 高次収差は屈折異常全体の中で約17%から20%を占めていると報告されている。この比率は、屈折異常の程度にもよる。最新の球面・シリンダーの眼鏡レンズで屈折異常を補正しても全体的に低下したような見え具合を訴える人において、この高次収差が主な原因の場合がある。例えば、補正視力が 1.0 でも、なんとなくボケている、夜光の回りに光輪(Halo)やコメット(Comets)が見える、そして鮮明性に欠ける等の訴えが聞かれる。過去5年間に亘って、このような高次収差の存在は屈折手術などで認識され、今後臨床において測定だけでなく補正することが必要になってきた。さらに、屈折手術以外の様々な分野において、高次収差への適切な対応の必要性が認識されるようになってきた。そして、新しい高次収差測定器具や補正レンズの出現で、高次収差への対応も可能になってきた。

I.収差とは

 理想的な光学システムでは、1点から出た光線はすべて1点に収束し、鮮明な像を形成する。しかし、収差があるために理想的光学像は実現されないのが普通である。この収差は、「レンズを通過する光線によって作られる像に発生する色づきや像のボケ・ゆがみが生じること」と定義される。収差は、次の5種類に大きく分類される。

1.ザイデル五収差

1)球面収差(Spherical aberration)
 レンズの中心部と周辺部を通過する光は、異なった位置に結像するため、光軸を中心とする同心円状の像が出来る。これを球面収差と呼んでいる。球面収差は、瞳孔を絞れば小さくなる。

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図1−1 球面収差

2)コマ収差(Coma aberration)
 レンズに対して斜めに入射する平行光束によって起こる結像の乱れで、尾を引いたようなボケた像をコマ収差と呼んでいる。球面収差以外の収差は光軸に対して非対称的である。

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図1−2 コマ収差

3)非点収差(Astigmatism aberration)
 斜めに入射した光束が、レンズ面で楕円を形成し、乱視の結像状況に似たボケた像を形成する収差を非点収差と呼んでいる。レンズの非点収差は、放射状乱視(Radial astigmatism)又は辺縁乱視(Marginal astigmatism)と呼んで、屈折異常での乱視と区別している。

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図1−3 非点収差

4)像面湾曲収差(Curvature of field aberration)
 像面湾曲収差は、平面物体がレンズを通して結像した時、湾曲した像を生じさせる収差である。これは非点収差に伴って発生する。

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図1−4 像面湾曲収差

5)歪曲収差(Distortion aberration)
 レンズ中心部を通る光線がつくる像の倍率と周辺光線の像の倍率が異なるため、像のボケはなくても歪んだ形に見えることがある。これが歪曲収差で、正レンズでは糸巻型の歪曲、負レンズでは樽型の歪曲が生じる。

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図1−5 歪曲収差

2.波面収差

 光を波面として捉える波動光学では、波面収差(Wavefront aberration)はレンズ通過後の光波面の位相の遅れや進みとして記述される。波面収差は、1次と2次の低次収差(眼鏡やCLで補正可能)と3次以上の高次収差に分類される(図1−6)。これらの収差は、1934年にゼルニケ(Zernike)が導入したゼルニケの多項式(Zernike polynomial)によって定量的に表現することが出来る。

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図1−6 低次・高次の波面収差パターン

 ゼルニケ係数の値は、古典的収差(球面収差など)に対応し、その収差の大きさや種類そしてその方向を表す(図1−7)。このゼニケル係数は瞳孔径によっても影響を受け、眼の収差の大きさや内容が変わる。実際の見え方に関して、同じ収差でも収差の種類によっても異なると言われている。さらに、収差間の相互作用も見え方に影響し、全収差が大きくても見え方があまり悪くない場合もある。

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図1−7 ゼルニケ係数による高次収差の大きさ・種類

 網膜像は、これらの収差と関係し臨床的に重要である。この網膜像の評価は、一般的にPSF(Point Spread Function)で表される。このPSFによって被検者の網膜に映る点像のシミュレーションが表現され、本人の見え具合の判定の目安となる。無収差であれば、小さな点が映る。収差があれば、この点像が拡がってボケて映る(図1−8)。

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図1−8 瞳孔径の変化と網膜像


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